「あ、ホントに寝てる」
がちゃりと不躾な金属音を響かせながら、なんの躊躇いもなくドアが開いたかと思うと、良く通る高い声が部屋の中に滑り込んできた。
パイナップルの調理法
「寝てたら悪いんですか」
少し掠れた声で小さく言うと、声の主は実に愉快そうに笑い声を洩らす。
「いや、いいんだ。今日は骸のお見舞いに来たんだから」
「何しに来たかと思えば……君も物好きですね」
「そう?あの骸が風邪で寝込んだとなると、気になって見に来る奴は大勢いるんじゃないの」
「……僕を何だと思ってるんです」
「ごめん。冗談だよ」
とても不愉快そうに言う骸を見て、綱吉はまた笑った。何がそんなに楽しいのか。
「林檎剥いてきたんだ。食べれる?」
綱吉は言ってベッドの側にあった小さなテーブルに、林檎の入った皿を置く。
それから部屋の端に追いやられていた椅子を両手で掴んで運び、強引にベッドの横に陣取った。
勿論、骸の返事は聞かぬまま。
「食べられない、と言ったら?」
「強引にねじ込む」
即答した綱吉に、やれやれと骸は重い体を起こした。
それから、十数年間で随分とふてぶてしくなったボンゴレボスを見遣る。
彼はそんな骸などお構いなしに、林檎にフォークを差して、それをずいっと突き出した。
見るとその林檎は酷くいびつな形をしていて、皮で作られた何とも頼りなさげな耳が2つ、辛うじて付いている。
おそらく兎を模したのだろうそれは、お世辞にも綺麗とは言えるものではなく。
まるで、皮を剥いた本人を表しているような、そんなひと切れだった。
骸がフォークの先に刺さった兎を凝視していると、ついに綱吉が口を開いた。
「はい。あーん」
出てきた言葉は、明かに普段の彼の言動からは考えられないもので。
――確実に、楽しんでいる。
そんなことをやられると、こっちとしては大変癪に障るというもので。
骸は無言で、綱吉の手から奪うようにしてフォークを取る。
「あっ、」
綱吉が抗議の声を上げようとしたが構わず、いびつな兎を口の中に放り込む。
「何だよー」
不貞腐れた呟きを漏らす綱吉を横目に、骸は林檎を咀嚼し嚥下した。
「これくらい、自分で食べられます」
骸は何食わぬ顔でフォークを小さな兎に差した。
ふた切れ目を口元まで運んだ時、綱吉がその手をむんずと掴む。
そしてそのまま、自分の口に運んだ。
「なんで君が食べるんですか」
「俺が剥いたんだから、俺の勝手だろ」
呆れた様子で言った骸に、綱吉は不機嫌そうに答える。
「拗ねてるんですか」
「べっつに、拗ねてない」
未だ口を忙しなく動かしながら、ぷいっとあらぬ方向をむいた綱吉に、骸は思わず苦笑する。
「子供じゃないんですから」
昔は小さな子供が周りにいたせいか、随分としっかりとしていた。
それなのに、その子供が大きくなって彼の世話を必要としなくなってから、彼はどんどん幼くなっているように思う。
しかし、それすらも愛おしいと感じる自分は、相当侵されているんだろう。
――この、目の前にいる沢田綱吉という存在に。
骸は小さく息を吐いて、持っていたフォークを差し出した。
「分かりましたよ。その林檎、僕に食べさせてください」
そう言った途端、綱吉の顔がぱっと輝いた。
「もう、しょーがないな」
嬉々として口元に差し出された小さな兎を見て、骸は少しだけ、笑った。
この状況を、当たり前のように受け入れている自分に、正直驚いている。
それと同時に、今この瞬間が幸福だと思えることが、嬉しかった。
「はい、あーん」
そう言われて、骸は今度こそ素直に小さく口を開いた。
END
09.04.22に頂きました!!