山本と二人、居間でテレビを見ていた時。
お菓子を並べた机の右側からふいに綱吉は呼ばれた。
パリ、とポテトを噛み砕いて、剛速球を投げる指がぴたりと一所を指さす。
光と音をあふれさせたその画面は夏の風物詩―――甲子園を映していて。今は功労者たるピッチャーのヒーローインタビューを行っていた。
勝利をつかみ取った達成感から彼の笑顔は曇りなく全開。弾んだ声はこちらまでも気分が湧き立ちそうなほどだ。
だが、隣の山本はそれ以上に楽しそうで、綱吉は訳が分からないままにつられて笑う。
「あれ、な。オレはツナを呼ぼうと思うのな」
「は?」
名案だろう、という風に告げられてもチンプンカンプンだ。“あれ”とは一体何のことか。
疑問符に追われる綱吉の脳内に、スピーカーを通して音が届く。
『この喜びを誰に伝えたいですか?』
『やっぱり両親と、あと地元の友だちです』
『みなさん喜ばれるでしょうね』
『だと嬉しいです。自分がここまで頑張れたのはその人たちがいたからなんで』
ほやほやとした綿菓子のような心地がするそのやり取りをかみ砕いて理解して。咀嚼した途端、綱吉の顔が赤く染まる。
「こ、な、っ……………、何で、オレ…?」
あんなに仲の良い父親もいるというのに。それを差し置いて、何で自分なのか。
「うん、まあ、親父もそうなんだけど、パッと浮かんだのがツナなのな」
甲子園でまず一番にツナを呼んでみたいと思ったのだ、と。
優勝したら親父も獄寺も色んな奴ひっくるめて呼んでみてもいいかもなー、なんて続けるのを落ち着かずに聞く。
テレビの向こうから名指しで呼ばれる恥ずかしさとかそんな簡単な理由じゃなく。どうにも形の定まらぬ面映ゆさに耳が熱い。
「っ、う、…その、…あ、ありがとう…?」
「どーいたしまして」
取りあえずそう締めて。本当に呼ばれたらどうしようか、なんて冷めない熱に頭を抱える。
この数年後、山本は有言実行の男と評される通りに満面の笑みでひとつの名を呼んだ。
09.08.09UP
野球の日にちなんで。