ツナと何でもない話をしながらコタツに入って、コンビニで買ったアイスを一緒に食う。
    それはとても贅沢なことなのだと伝えたら、右隣に座るコタツ主は大きな薄茶の瞳をまたたいて、
    『…ふぅ、ん』と至極あいまいな返答をくれた。


    ―――もったいねーの。

    ビニールのフィルムを剥いで、アイスをかみ砕きながら山本は内心に思う。
    2度3度とまぶたを行き来した綱吉は前出の山本の発言に驚いたあと、声に出したと同じようにあやふやな笑顔を浮かべていて。
    その笑顔を声にするなら『…本当かなぁ』といった具合だろうか。どうにも自信のない様子である。

    もったいない。

    実はもう何度もその感想を山本は綱吉に抱いていた。
    中学から知り合った友人とはいえ、沢田綱吉という人間は居心地のよい空間をつくるのに長けていて。
    こうして三人組の中の唯一の成績優等者――獄寺がおらずとも一緒に勉強だなんて、
    山本にしてみれば遠慮したい状況においても疲労を感じることなく過ごせているというのに。
    いまだ彼はともに笑い合う環境に、ときに不思議そうな、座りの悪そうな表情を見せる。
    思い出したかのように現れるそれは山本に言いようのない感覚を生じさせて。
    こんなにイイヤツなのに、もったいねー。と、ちゃんと見てみろよ、なんてクラスの皆に触れて回りたくなったり。
    お前はオレにはもったいないくらいサイコーなヤツだ。と、細い肩を叩いて、腕を回したくなったりもする。
    そして最近はそこに、
    ああ、こうして一緒にいるゆっくりとした時間が好きだ。と、他の誰かを交えるのが何だかもったいなく感じたりもして。
    どうにも、めちゃくちゃだ。そう苦笑してしまいそうなほど山本の感情は時々に違った顔をのぞかせる。
    今の“もったいない”は二番目と三番目の色が強いか。
    もっと自信を持て、こんなにオレを喜ばせているのに。そう告げてしまいそうになる。

    ―――でも、こーいうときのツナって結構頑固だからなー。

    ただ言うだけでは本気にはしないのだろう。その程度で自信を持ってくれるなら、普段の獄寺の発言の何割かはとうに報われている。
    二番煎じは性に合わないし。どうしたものか、とふと悩む。
    そして目に入ったひとつの答え。

    「なー、ツナ」
    「ん?」
    「オレってさ、目、良いの」
    「はあ?……ま、まあ、山本の野球みてたら分かるけど」

    だからどうした。そう簡単に切って捨てずに必ず返してくれる相槌。
    疑問をいっぱいに浮かべた表情をしてながらも決して綱吉は投げかけた言葉を取り落とさない。

    「んで、ツナにも褒めてもらった通り、良い目はな、人を見る目としても良いつもりなんだぜ」
    「……山本」
    「これがしょーこな」

    ひらりと振った右手の先には食べ終えたアイスのバーが踊っていて。薄い木の棒にはくっきりとした“当たり”の文字。
    並べた言葉だけでは拭い切れなかったツナの複雑な感情がきれいさっぱり、驚きへと塗り替えられた。

    「……………」
    「な、ゼータク、ゼータク」

    もっともらしく何度も頷けば、あっけにとられていた綱吉の肩が次第に震えだし。

    「〜〜〜っ、ああ、もー、山本節、最強すぎるよ!」

    そう、満面の笑みで声をあげた。

    ―――この顔のが、やっぱ好きだな。

    なんて、あいまいさを含んでいた先ほどまでの表情と比べて思う。
    どんな表情も嫌いではないけれど、やっぱり悲しさや寂しさのないまっさらな笑顔が一番で。
    山本の胸をほんのりと温める笑顔につられて頬がゆるむ。

    「うん、ホント、冬なのにアイスが美味いって、すごい贅沢だね」

    そう、ぱくぱくとリズム良く、おいしそうに自分のアイスを食べ出した綱吉の姿に。
    “見る目”の本当の意味を告げるのはいつになるか。

    ―――“友人”とは言ってねーって、ツナ、気づいてないしなー。

    まあ、とりあえず。
    綱吉がアイスを食べ終わるのを待って、形だけでも宿題にぶつかって。
    そうして、当たりを引き換えに行ってまた一緒に食べる間に、もう何度か感情を交えてみようか。
    もったいないほどの存在なんだ、と。
    綱吉がほんの少しでも自信をもってくれるほどには。





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