「っ、うぅうんまい!!」
    「日本語を喋って下さい、日本語を」

    ツッコミは君の専門でしょう?
    そう、ちらっとも関心の寄る辺も感じさせない口調でいう骸の手には某・家庭教師さまのこだわりの一品―――磨き抜かれた銀のフォークが握られている。

    「だって美味いもんは美味いんだよ。お前もちゃっかり食ってながら文句いうなよなー」

    料理評論家とまではいかずとも少しは感動を口にすればいいのに。澄ましたイタリア男さまは今日も今日とて絵になるような姿で食を進められている。
    まあ、先に刺さっているのがチョコレートケーキってのは世の女性の方々にすりゃあ微妙かもしれないが。
    ともあれ。
    すっとした唇が開き、並んだ歯のむこう甘い塊は飲み込まれ、きれいに咀嚼される。そんな銀のフォークの流れは鈍ることはない。

    「美味いだろ」
    「…及第点ってところですね」
    「素直じゃないなあ」
    「僕の時間を割いているんです。これぐらい当たり前でしょう?」

    そもそも何が悲しくて男二人でこんな日を。貴方、少しぐらいは甲斐性ってもんを知ったらどうです?
    相変わらずの憎まれ口に、綱吉は顔を引きつらせながらワインの瓶を握った。
    ぶっかけてやりたいのは山々だが、この一本の値段も馬鹿にならない。ぐっと我慢の子でグラスへと注ぐ。
    決してヤケ酒ではない。(はずだ)
    だから、

    「うっせー、ケーキがチョコだったから喜ぶかと思ったんだよ」

    そう、グラスを呷りながらぶちぶち呟いた向こう。何ともいえぬ表情で骸が黙り込んだことを、最後の一滴まで飲み干していた綱吉は知らない。



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