丸や三角。四角に、よく分からない歪な形。
きらきらと様々な色に慌ただしい部屋をぐるりと眺めて、骸はあからさまに呆れの息をついた。
「いくら質が良くても飾り手によってはこんなにも陳腐になるんですねぇ」
うん十万の家具が泣きますよ。首を振り振り肩をすくめてやれば、ぶん、と音を立てて鋏が飛んできた。
危なげなく避ければチッ…!と忌々しげな舌打ち。
「綱吉くん、君、刃物を人に投げちゃいけませんって習いませんでした?」
「オレのゆーしゅーな先生さまは『ナメられるくらいなら潰せ』って叩きこんでくれたからな」
「ああ、だから毎回青あざだらけだったんですか。それだけ嘗められ尽くされてたんですね」
「もう、ホント、黙れ、お前」
その口を貼りつけたくて堪らなくなる。言って、ぎりぎりと液体のりを手に睨みつけてくる姿の滑稽さを、かの忠犬が目にしたら何というだろう。
…まあ、あの駄犬はどんな姿だろうと“流石!”と手を打ち大喜びしそうな気がするが。
そんな見る者によっては正確な認識を保てなくなる、骸からしたら阿呆でのん気な童顔のボスはある意味似合いの折り紙を片手にうんうんと唸っている。
「君、不器用なくせして妙に凝り性ですよね」
「うるさい、話しかけんな、指が攣る」
「じゃあ、さっさと解放してくださいよ」
「じゃあ、ちゃっちゃとサンタのひとつぐらい折ってくれよ」
これがお前への罰なんだから損害の一割程度は役に立て!叫んだ拍子に彼の手元、つなげていた星がひとつ、ぐしゃりと潰れた。
「ああ!」
「君も切った星ぐらいまともにつなげてくださいよ」
「うっせぇ!」
そうしてぶつぶつ八つ当たりに近い文句を呟きながら綱吉は金、銀と交互につなげていた星をそっと剥がす。
その手つきを横目に見下ろし、骸も散らばっていた折り紙を一枚、ひらりと拾った。
「たしか前がハロウィンでその前が七夕でしたっけ?」
「そういえば両方ともお前、罰でオレの手伝いしてたんだったか。……いい加減懲りて学習してくれませんかねぇ」
「罰のバリエーションすら貧困な貴方の部下ですからねえ、どうでしょう」
「……どうでしょう、じゃねえよ。どうでしょう、じゃ」
全く、あったまいってぇ。いつの間にかずいぶんと口の悪くなってしまった調子に合わせて、ようやっと飾りともいえぬ星の連なりは出来上がった。
壁から壁。どこか寸足らずに感じる長さでこの部屋にまた、色を加える。
巨大マフィアの頂点に立つ、男の部屋が色に溢れる。
「ランボがさあ」
吐息のように小さく、綱吉が口を開いた。
「分かってたけどぐんぐん背も伸びちゃって、気がつけばオレと同じぐらいの目線になっててさ。
『もう子どもじゃありませんよ、ボンゴレ』なんて、生意気いうようになって。
ああ、こいつ、もう12かー、本当にもうただ甘やかせばいいだけの歳じゃなくなったんだなー、
って思わされたんだ」
「だから、甘やかせるうちに甘やかす、ですか?」
「そう。今だけの特権だろ」
今ならディーノさんの気持ちがわかるね!胸を張る綱吉の頭には弟分と守護者の違いがきちんと分かっているのだろうか。
きっと欠片も分かってないに違いない。
「年中行事に誕生日、その他もろもろ。雷の守護者は仕事をする暇もないんじゃないんですか?」
「ハイハイ、拗ねないよーに。骸の誕生日にもちゃんと祝ってやっただろ」
「気色悪いことを言わないでください。というか、荷物ひとつ送ったぐらいで祝ったなんておこがましい」
「当日すら連絡取れないお前が悪いんだろうが。文句言うぐらいならゴデ●バと極上ワイン返せよ」
「残ってるわけないでしょう。生モノですよ」
「好物ですよって言えば可愛げのあるものを…」
「君に可愛いなんて言われた日にはお終いですね。鏡を見たらどうです?」
「…ああ言えばこう言う」
「僕に口で勝とうなんて百年早いですよ」
下らない応酬の合間。不格好な飾りがいくつも出来上がり、たった一夜のために部屋を彩る。
「今度はちゃんと言ってやるよ」
「何を?」
「誕生日おめでとう、骸って……
………、思った以上に、気持ち悪いな」
「君、本当に失礼ですよね。それはこっちの台詞です」
NOと言えぬ日本人でもあるまい。
きっぱりと結構ですと断った骸は数か月ののち、散々からかった綱吉の不貞腐れた顔の裏、意外にある負けず嫌いさと
繊細かつ複雑だといわれる日本語のひとつ、“結構”、の極めて悪どい使い方を知ることになる。
08.12.23UP