「なあ、骸、オレがメタボになったらどうする?」
    「そんな怠惰な生徒はあっという間に輪廻の輪の中でしょうね」

    貧相の代表格がなにを言っている。
    そう一片の慰めもない、むしろ貶しまくりなセリフに綱吉の口元が引きつる。
    たしかに平均的(平均的だ!絶対に!)なこの体格が短期間にまるまるっと膨らめば怠惰といわれても仕方ないだろう。が、しかし。

    「だったら未成年を酒浸りにさせんなよな!」

    渾身のツッコミは、隣屈む骸ではなく。チュイン、と高く耳元を掠めた音よって叩き潰された。

    「『人聞きの悪いことを言うな、これは立派な教育だぞ?』―――以上、アルコバレーノの発言ですが?」
    「知ってる、分かってる、だと思ってたからいちいち音声化すんなよ!」

    骸の言う内容はまるで見るも無残となった部屋のどこか、絶賛狙撃中な相手にささやかれたようで気分が悪い。
    ぞわぞわと鳥肌のたった腕をなでつけ、両手のグローブを固く握りしめた。

    事の始まりは理不尽の塊である家庭教師さまの『ボスたるもの酒に弱くちゃ話にならない』という一言からだ。
    彼のいう通り、あちらにすれば意味のある行為なのかもしれない。
    けれども、せいぜい舐める程度にしか嗜まなかった綱吉にとっては拷問に等しく。
    せめてぶっ続け一週間なんて馬鹿げた内容じゃなく、もっと初心者に優しい作りにしてくれよ!
    そういくども抗議して、受理していただけなかった綱吉は6日目にして見事に潰れた。

    「あのヒバリさんを前に立ち上がっていられるはずがないだろ…」

    平素であれ恐ろしく“猛禽類”な彼を相手に明け方までもった方がすごいのだ。根っからの“草食動物”である綱吉をナイスファイト!と讃えてもおかしくないというのに。

    「オレの肝臓よ、お疲れ様。今回も何とか生き延びような〜」
    「……とうとう頭にまで酒がまわりました?」
    「うっさい、誰も言ってくれないから自分で言ってるんだろ」
    「さみしい人ですねぇ」
    「………今のが、一番利いた」

    お前、酷すぎ。ぶつぶつ呟く背後でひときわ強く、破壊音が響く。
    どうやら上質なこの机とソファとは、ここらでお別れのようだ。
    運悪く巻き込まれた骸の肩をぽん、と叩く。
    ここまできたら最後まで付き合えよ。そう綱吉は“お仕置き”をはるか越えたレベルの現状から逃がす気はないことを伝えたつもりだったのだが。

    「ひとつ質問があるのですが」
    「なに?」
    「雲雀恭弥の後は、あのアルコバレーノが控えていたんですよね」

    なぜか確定した形で問われたことに首を傾げる。けれども事実は事実なので即座に頷けばわざとらしい溜息をつかれた。
    そうして無言のまま骸の肩にのせたままの腕をとられる。
    ぶわり、浮いた感触に唖然と口が開いた。

    「きちんと学習し直してきてください」

    持久力だとか、役に立たない血の性能とかね、なんて。ひらりと手まで振ってくれちゃったその表情がまた忌々しく。
    クソったれ!叫びは何の盾もない、輝かんばかりの暴力にあっさりとかき消された。

    いきなり機嫌の悪くなった理由もきけず、
    “ボンゴレ酒蒸し耐久レース”は仕上げとばかりに付き合わされた先生との酒の海で幕を引いたのだ。



                                                                           08.12.11UP