暑くて騒々しい夏。
けれども一年でいちばん長い休みのあるその季節を沢田綱吉は好んでいた。
たとえば、そう、ほんの少し夜更かしをしたり、友だちといつもはいかない場所まで遠出できたりする、そんなとこが好きで。
長く住まった並盛という町がどこか変わった姿を見せるのも新鮮に感じていた。
ラジオ体操の音。のんびりとした朝のテレビ。じわじわと熱を増す空気の感触。
リボーンという頭の上がらない存在が来てから知り合った人の数だけ、そんな情景が増えていく。
だけど。
(………別に、スリルとかそんなもんを求めたつもりはなかったんだけど…)
頭を抱えるとはこういう状況か。
綱吉はため息を飲み込む。
立ち尽くす己の隣へ聞こえようものならば、気の抜けるラジオ体操の音楽など二度と耳にすることはないだろう。
緊迫感にぎしりと横をうかがう。
眼帯をつけた少女が気づいて小首を傾げた。
(『?』じゃないだろう、『?』じゃ!お前、骸だろ?!)
口に出せぬツッコミが虚しく心で叫ぶ。このどこから見ても完ぺきな少女の中身が男だなんて、誰が気づくというのか。
声に出した途端、綱吉が周り行く人々に白い目で見られるに違いない。
第一、気がついているなんて骸に知られようものならば面倒なことに巻き込まれることは確実で。
だから綱吉は名を呼ばず、当たり障りのない対応に腐心していた。
どうしてか二人、縁日なんておおよそ似つかわしくない場所にいる今もなお。
(獄寺君と山本とは来週行く予定で、ヒバリさんももう屋台を回り終わっていたみたいだからココを通りがかるはずもない)
つくづく逃れようのない展開だ。そしてNOと言わせなかった骸の手腕に改めて恐れ入る。
奈々に出かけることを伝えられただけ、有難いと思うべきなのだろうか…。
そんな現実逃避を重ねに重ねて。
小さな祭りはもうすぐ終盤を迎える。
花火が空を彩った。
「ありがとう、ボス」
いつものクロームとはほんの少し違う、染み入るような声がぽつりと言う。
それは最後の花火が消えて、しばらくしてからのこと。
張っていた綱吉の神経がふるりと揺れる。
今か、今かと構えていたのとはまるで違う響きの言葉に動揺した。
そんな全身に表れていたのだろう驚きに、少女の顔はわずか苦笑して。
「感じたかったから。…どうしてか、一緒に」
ここへ。
スッと掠めるよう触れられた胸から白い指が引かれる。
ありがとう、綱吉君。
二度目の言葉が噛み砕かれて咀嚼されるのはもうしばらく後で。
許容量いっぱいいっぱいの綱吉は選びとれない反応に口を開け閉める。
花火にすら勝る強さで胸が震えた。
09.07.26UP