六道骸という人間はそりゃあ嫌われている。
    大抵は恐れという感情に占められているものの、ある一点においては目にした途端、武器が飛び交うほどに険悪で。
    出歩くたびにそんなムードが漂うさまは『まるでいざこざホイホイのようだ…』と、それこそトラブルホイホイの少年に言わしめるほどだ。
    ただ、その理由は明白で。
    彼らは“沢田綱吉”という大空に集うがゆえ、骸を嫌うのだ。

    ―――雲雀くんはともかく、あの誰とでも上手くいきそうな雨の守護者ですら警戒しますからねえ。

    崩さぬ笑みの向こう。探るように据えられる彼の瞳ははっきりと好意的でないと感じさせる。
    沢田綱吉が六道骸を唯一と選んだ今ですら。
    それは大空が絶えることのない敬愛を受けている証拠なのだろうけれども。
    だとしても面倒くさいことには変わりない。
    いわゆる恋人同士となった相手に会うのに、どうしてこんなにも気を遣わねばならぬのか…。
    はち合わせしないようにと指定された場所で骸はイライラと足を組みかえる。
    もう長いことこの地に縫いとめられた、それ。

    ―――この僕を待たせるとは良い度胸ですよ、綱吉くん。

    どうせ抜け出すのに手間取っているのだ。あの要領の悪い少年は。
    骸を待たせてしまったことに焦り、けれど引き留める存在を無碍にできなくて。
    その存在は雷か、雨か、嵐か……もしくは虹の一角か。
    どちらにせよ厄介きわまりないのに。
    攫いにもいかず、骸はこうして言われたままの場所から動かずにいる。
    それは…

    「―――っ、骸!」

    そう、息を切らして辿りついたその存在を己も唯一と選んだからで。
    優柔不断の塊のような少年。そんな甘さに満ちた彼だからこそ、骸は歩み寄る。

    「遅いですよ、綱吉くん」

    そうして、苛立ちもなにもかも、するりと溶けていってしまうのだ。
    決して表に出すことはないけれど。



    それでも、
    何が立ちふさがろうとも離すつもりはないほどには



                                                                 
09.07.07UP




    ↓ 綱吉視点のオマケ ↓


    両足と両手を必死に動かす。ぜ、は、と切れそうになる息は綱吉の精一杯さが如実ににじんでいて。
    焦る。
    ―――どうしてこうもアイツはこうも嫌われているんだっ!
    せっかくの自分に出来うる限りのオシャレ…考えててのた打ち回りそうなほど恥ずかしいが…、それも汗にまみれて台無しとなり、
    八つ当たりだろう感情がぐるぐると回る。
    どうしてか、綱吉の周りにいる人々は六道骸という人間を放っておかない。
    綱吉が彼と二人で時間を過ごすと知ろうものなら、それはもう見事な手腕で阻止しようとするのだ。
    基本的には綱吉のすることに賛同する獄寺も、温和で人当たりのいい山本も。リボーンですらあまり良い顔はしない。
    それは骸が行ってきたことを踏まえれば当然のことなのかもしれないし、
    実際、綱吉自身も骸にはもうあんなことをしてほしくはないと願うほどにはキツイことをしてくれた。
    けど、でも
    ―――たとえば、そう、こんな風に。


    「……何ニヤニヤしてるんですか、気持ち悪い」

    ようやく辿りついた待ち合わせ場所。そこから少し離れたベンチに座りながら綱吉は失礼極まりないセリフをくれた骸を見上げる。
    座った綱吉に対して真正面。立ったままの骸の手には二本の缶ジュース。
    それは何も言わずとも骸が用意してくれたもの。

    「愛されてるなあ、と思って」
    「…………………君、暑さで脳が腐ったんですか?」

    ただでさえ手遅れなのに。なんて続けやがった骸の手ごと缶ジュースを奪って、同じ位置へと引っ張り込む。
    遅れた綱吉を待ってくれていて、こんな風に気をまわしてくれる姿も見るだけで、もう綱吉はあふれ出る笑みを抑えられないのだ。




    誰が何と言っても、彼の近くへ行きたいという気持ちはもう抑えられるはずもなく


                                                                      09.07.19追加