銃器も小型化、消音化の時代とはいえ発砲の音はいつだって綱吉の耳にうるさく聞こえる。
    避けろ避けろと鳴く超直感が盛大に警報を響かせるからだ。
    後方へニ歩。左手へ一歩。
    発信源は向いのビルの屋上か。
    狙撃を外すべく踏まれ続けるステップは踊るように軽くとも、踊りほど気楽にはいかない。
    ストレス解消が目的のちょっとした外出で銃創を作るなど全く御免であったので、そりゃあまあ綱吉も必死にもなるわけだ。
    が、いくら荒ごとにも慣れつつある身とはいえ単身で、かつ姿の見えない相手と対するのはなかなかに骨が折れる。
    散らすどころか募ってしまったイライラを凝縮させて吐き出した嘆息は、綱吉が感じるよりも深く疲労をのせていた。
    また一発、鋼が地を打つ。
    いっそのこと腕一本を盾にして突っ込んでみるか。…いやいやそれこそ右腕が泣いて外出禁止令なんてトンデモ発令を出してしまうかもしれないし。
    などと、つらつら脈絡もなく唸ってしまうほどにはその時の綱吉は切羽詰まっていて。
    だから、つい、呼んでしまったのだ。

    「骸」

    と。

    案の定タイミング良く現われた霧の守護者に狙撃手はあっさりと沈められ、本部へと身柄を拘束される。

    その最中。
    妙に上機嫌な骸は疲れきった綱吉へと告げた。

    ようやっと僕を呼びましたね。

    そう、謳うように囁く。
    気の迷いです。空耳です。なんて今更通じるはずもなく。
    戦闘以上の脱力感に綱吉はうなだれた。

    いつだって真っ先に呼ぶのは最強無比の己が家庭教師。だったのに、何の間違いか…。
    問うた心の奥底、鮮やかな感情に綱吉は数十回目の否定を重ねた。




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