「貴方、八つ当たりに僕を呼ぶの止めてくれません?」

    長い指がくゆりとワインを揺らすのが良く似合う。いつだろうと嫌味なほどに男前な骸の発言だ。

    「イイ男がんな細かいこと気にするなよ」
    「ですから三度目までは文句を言わずにおいてあげたでしょう?」

    これ以上君の男っぷりを下げたくないのなら、いらぬ口はきかないでください。
    きっぱりと切って捨ててくれやがった感触は彼が一口含んで揺らした赤の切り口とよく似ている。
    故郷から遠く離れて馴染んだその味を自身も呑み込みながら、そらしていた視線を前へと向ける。
    無言のままぶつかった二色の瞳は、いつも通り揺らぎひとつない余裕っぷりだ。

    「拗ねない」
    「拗ねてない」
    「じゃあ不貞腐れないでください」
    「不貞腐れてもねぇよ!」
    「ああ、駄々をこねてるんでしたね」
    「…お前、ほんとイタリア人?」

    何なんだこの追い詰め感。間髪おかず言い回しのみでせめてくる頭の回転に心底むかつく。純粋なる日本人である自分をナメているのだろうか。

    「ねえ、綱吉くん」

    “ナメてる”の漢字ははたしてどうだったか。そんなことをつらつら考えていた思考が止まる。

    「いい加減、吐き出してみたらどうです?」

    何を。顔に表れていたのだろう問いに骸は妙な顔で笑った。
    嘲りでも呆れでもない微かなそれに眉を跳ね上げる、一瞬速く。

    「八つ当たりでなく、いい加減相談ぐらいしたらどうなんですか?」

    酒に誤魔化すのではなく、
    ね、の部分でグラスを取り上げられる。磨き上げられた机面がかつりと鳴った。

    「愚痴のひとつぐらいで殺しはしませんから」
    「嘘だろ、それ」
    「まあ、鬱陶しかったら保障しませんけど」
    「ひとつぐらい鬱陶しがるなよ!」

    クソ!がしりと頭をかく。方々に跳ねていた髪がさらにまとまりなくなっただろう姿が浮かんだ。
    情けない。深く深く息をついて
    降参を口開いた。


    相談、なんてひどく似つかわしくないことを口走った己が守護者へ向けて。



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