薄くたなびいていた硝煙を一振りで掻き消し、黒衣の殺し屋は銃を仕舞う。
夕暮れの美しい光が照らし出すのはごちゃごちゃと落ち着きのない、破壊の跡。
瓦礫のひとつを蹴り飛ばしながら、優秀なボンゴレの部隊はきっちりと外野を抑えていると心中に満足の息を吐く。
獄寺の野郎、前は我慢しきれず突っ込んできちまったからな。今回は合格点をやろうと浮かべたのは相変わらずニヒルな笑み。
蹴り飛ばした石の塊はあやまたず徹底的にのした敵部隊のボスへとクリーンヒットした。
「こら、これ以上追い打ちかけるなよ」
慌てて止めに入る、低くも高くもない声。
こら、ってお前はオレの母親か何かか?背も足も伸びきらなかった若き東洋人を呆れながら見上げる。
この青年こそが敵の一番狙い。ボンゴレ10代目かつリボーンの教え子である沢田綱吉だ。
「追い打ちじゃねぇ、反撃の余地がないか確認してやったんだぞ」
「あれだけ容赦なく潰しておいて、余地も何もあったもんじゃないくせによく言うよ…」
意識の飛び具合がさらに深まっただろう敵へ近寄り、状態を診ていた綱吉は頷きながらリボーンへと呆れを返してくる。
相変わらずの甘っちょろさも、呆れに呆れを返してくる生意気さも。何ともこの10代目らしいとは思うけれど。
「ツナ、お前の耳は節穴か?確認してやった、と言ってるんだ。オレが」
「ありがとうございました!大変たすかりました!」
「ったく、いい歳して、いい加減学習というものを知れってんだ」
かちりと撃鉄を外せばあからさまにホッとした綱吉。発言の前に一度脳内で推敲してみろと口を酸っぱくして教え込んだというのに。
やはり再教育が必要か、と情けない面をした綱吉のスケジュールを洗い直し、【本日は午後20時まで余裕アリ】の結論をはじき出して。
結論通りとなるようキャッバローネのボスへと断りの電話を入れようとした、リボーンの未だ小さな手が止まる。
同時に、ホントお前って理不尽なヤツだよな、などとぶつぶつ文句を言っていた綱吉の表情がすっと引き締まった。
今回の敵を前にしても見せることのなかった、隙のない姿勢。
「……理不尽な人、もう一人来たよ…」
「ご大層なセリフだね。ご褒美をもらいにきた部下に労いのひとつぐらい掛けたってバチは当たらないんじゃない?」
「それこそ貴方には必要ないでしょう、ヒバリさん。怖いのでそういう物言いは勘弁して下さい…」
「ホント、つまらない子」
言葉遊びもまともに出来ない愚鈍さ。など、リボーンばかりでなく綱吉から余裕をかなぐり捨てさせた雲雀自身も分かりきっているだろうに。
よほど機嫌が良いのか。ねえ、ボス。呼びかけた声は常よりも少し高かった。
綱吉の顔が盛大に引きつる。
「報酬、受取りに来たよ」
「っ、だから、どうしていっつもこーなるんですか?!」
がきん、と鈍い音をたててぶつかり合うトンファーとグローブ。避けきれなかった時点で綱吉の負け。
立ち上げようとしていた携帯を閉じて、リボーンは不満の息を吐き出す。
雲雀が絡んだのなら綱吉のスケジュールなど端から崩れていくに違いないのだから。
「つか、金で満足して下さいよ!アンタ好きでしょう、お金」
「好きだよ。色々使えるからね。でも金は自分で作れる」
「すんごい嫌味ですね!それ!」
「でも、ね」
瓦礫が砕かれ、砂塵となるまでいかほどか。
雲雀のふるうトンファーが綱吉へ紙一重と迫る。
「これは自分一人じゃ作れないでしょ?」
「……すんごい、迷惑です…」
げんなりとした綱吉は半身を逸らし、左手で鈍器の頭をつかんだ。
そうして長々と続くじゃれ合い。
「雲雀もいい加減大人になりゃあいいんだが…」
毎度毎度の大空と雲。幼稚園児だってもう少しまともな気がするというのに。
ともあれ、再教育という楽しみは減ったしまったが、止めるのも面倒極まりない。
まあ、これも教育の一環となるだろう。そう着々と戦闘能力の伸ばす二人を傍観すべく、リボーンは座りの良い場所を探した。
大空と雲の宴が終わるのは、もうしばらく先のこと。
09.02.01UP