美味い夕食も、酒も平らげてしまったこの後はどう過ごそうか。
    なんて、問うまでもなく。
    がつり、と重くぶつかる感触が、答えをくれる。


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    「ねえ、そろそろ本題に入ろうか」

    夜風なんて目じゃない雲雀の冷やかさが肌を刺す。
    前置きなど用をなさないのだろう。
    戯れよりも気まぐれな、雲雀の興味が薄れればあっさりと消えゆくだろう会話に小さく息を吐く。
    返す言葉を発するよりも速く、繰り出される一撃を何とか受けるために綱吉は低く腰を据えた。
    一合、二合。
    文字通り火花を散らせながら、打ち合う。

    「…今回は、違う結果にしたかったんですけど」
    「へえ、そうなんだ」
    「そーなんですよ。一応、平和ボケしてるらしいボスとしては、ですね」

    殴り合いを推奨するのもどうかと思いますし。それに。

    「ダメツナとしてはおっかない先輩には、なるべく殴られたくないですから」
    「よく言うよ」

    大人しく殴られもしないくせに。雲雀の片頬だけ上げた獰猛な笑みに綱吉は背へと汗をかく。
    一歩後ろへステップを取った視界の先、己の髪が5・6本、飛んだ。
    そのまま息を呑む間もなく、雲雀のふるうスピードがどんどんと増していく。
    いく度もトンファーと拳を重ね、身体全体を余すことなくぶつけ合う。
    言葉が追いつかなくなる、その直前。

    「朝は君の想い出話」

    攻撃の苛烈さなんて微塵も感じさせない静かさで、雲雀が言った。
    く、と。綱吉の踏み出す足がわずか弛む。
    そんな絶好の機会を見逃す守護者でもなく、腹へと向かう打撃を慌てて左手でいなす。
    容赦がない。けれど、それよりも。

    「昼はボスとしての君の話」

    ねえ。
    防衛一手となった綱吉へささやくよう、近く。
    雲雀の顔が微笑んだ。

    「どちらかに傾きそうになったら僕が咬み殺してあげるから」

    だから、全力で来な。と。
    そう言う雲雀の凶悪さに、綱吉は震えた。
    それはいつからか勝手に決めて、無理やり押しつけてしまった―――ヒバリさん・デー、なんて
    妙に力の抜ける“今日”のような日の、綱吉自身ですら気がついていなかった甘えに直面させられたからか。
    それに毎回さしたる抵抗もみせずに付き合ってくれた雲雀の、分かりやすいほどの優しさに、か。
    力などいらない。
    そう泣いて家庭教師へと訴えていた幼い自分が思い出される。
    今、言い知れぬ安堵を感じさせたのは、純然たる“力”の塊のような人。
    何度かくり返して、ようやっと気がつかされたことに綱吉の面へと苦笑がわく。

    「お言葉に甘えます、ヒバリさん」
    「今夜はそう簡単に寝かせないよ」

    決着の着くまで、やろう。と言う、使いどころの間違っているだろう雲雀のセリフ。
    だけど、いい加減麻痺しつつある綱吉の聴覚にはどうしてか淡く、柔らかく、
    甘く、聴こえた。




                                                                                                                                      08.12.31UP