秘蔵の米と味噌を用いた和食を作ってもらって、食後の玉露まで堪能し、ゆるゆると息をつく。
    そうして雲雀ご所望の新聞を何紙か挟んで向い合うのが、綱吉の“今日”の始まりだった。


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    「オレ、初めて新聞の読み方習ったのって、テレビ欄の見方からなんですよね」

    あれはいくつの頃だったか。ロボット番組に夢中なあまり確認しだしたのだから、5・6歳のころだと思うのだけれども。
    寝汚い綱吉らしくのんびりと間延びした声は、ある者たちからすれば冷汗が出るようなその空間に、どこかしっくりと落ちた。

    「あんまり局数が多いから訳が分からなくて母さんに泣きついたんですよ」

    懐かしさから綱吉の頬が緩む。
    ああ、うん。確か5歳だ。
    そんな気恥ずかしくて、でもほっこりと暖かい心地のまま『ヒバリさんはどうでした?』と綱吉は問う。
    3紙目に移っていた雲雀が顔も上げず、短く答えた。

    「僕は一面」
    「へ?」
    「一面から読む。テレビ欄から読むなんて読みづらいことしない」
    「え、読みづらい、ですか?」
    「…君、一面がどこかぐらいは分かってるよね?」
    「あ!はい!もちろんです」

    じろりと向けられた視線に綱吉は慌てて頷く。
    どこか、なんて問われてようやっと気がついたが、確かにテレビ欄と一面はたいてい真逆に位置している。
    一面から三面、そして紙面全体へと目を向けるのが最も理解しやすい。
    そんなこと、経済紙と面を向き合わせるようになってからは身をもって分かっていたつもりだったのに。
    嘆息が自然と綱吉の口を割った。

    「うぅーん、なかなか身につかないなぁ…」
    「いいんじゃない?」

    ばさり。乾いた音が綱吉の意識を引く。
    朝の柔らかな光を背にした雲雀が長い脚を組み直し、紙面をめくる、その音。
    切れ長の瞳がするりと情報の海を渡り、合間にコーヒーの入ったカップを傾けていた。
    一瞬、時間すら忘れそうになる、光景。

    「君には似合わないしね」
    「…そりゃあ、すみませんでした」

    あっさりと振り落とされた感動に、不貞腐れた調子で綱吉は応える。
    アンタに比べりゃ誰だって似合わないだろうよ。と考え、すぐさま、
    あれ?リボーンなら似合うか?獄寺君でもいけそうだし、骸もそうだよなあ。案外、山本だってさらっと似合わせちゃいそうだ。
    なんて。どうしてこう自分の回りには無駄に格好のいいやつばっかりなんだ、と妙な世知辛さを感じていた、その綱吉の頬、1cm隣。
    ズブリとめり込んだトンファーにさっと血の気が引く。

    「会話中に意識を逸らすなんて、ずいぶんと偉くなったもんだね」
    「大変申し訳ございませんでしたあ!!以後気をつけます!!」
    「うん、そうして」

    君の右往左往する思考は新聞のように残っちゃくれないからね。きちんとこっちを向いてなよ。
    そう続けられたことに綱吉の薄茶の瞳はこぼれそうなほど見開かれた。
    けれど、どういうことか?なんて問わせる間もなく、雲雀の視線は紙面へと戻されていたから。
    不審なほど両手をさまよわせて、黙り込んで、ぎこちなくメジャー紙を手に取った。





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