一度寝入ったらなかなか目の覚めない綱吉がその声に気がつけたのは奇跡に等しい。
夜半。体内時計が正確であれば二時頃か。
微かな気配に綱吉は重い瞼をようよう持ち上げた。
夢の淵にいた視界は刷毛で塗ったように暗く、映るのは無機質な天井の姿だけ。
だから、ただ珍しくも目が覚めただけだろうと思っていたのだけれども。
「――っ、――」
押し殺された息遣いに沈みかけた意識を立ち上げる。
音の在り処は――
「獄寺君?」
上体をぶら下げて呼びかければびくりと震える肩。
驚かせた上に恐縮させてはたまらないと一言謝って降りるべく身体を戻そうとしていた綱吉は、けれど石を飲んだように押し黙った。
獄寺の顔が夜目にも分かるほど青かったからだ。
考えるより先に、身体が動く。
くるりと回転の要領で下へと着地できたのはまさにリボーンの修業のたまものに他ならない。
あとは夢中だったからか。
別の場面ではこうも上手くはいかなかっただろう。
ともあれドジのひとつも披露することなく、綱吉は二段ベッドの下へと近寄ることができた。
呼びかけからこちら、固まったように動かぬ獄寺が触れることのできる距離へ。
なぜ、彼がこうまでも血の気を引かせ、気を張らせているのか。
超直感を働かせるまでもなく綱吉は分かっていた。
獄寺は顔を上げてまっすぐと綱吉の首を見つめたのだ。
―――この幻は守護者の命と繋がっている。
そう幻騎士がほのめかしていたのはどうやら正しかったらしい。
綱吉にすれば攻撃せずに良かったとホッとする事実だが、獄寺には違うようで。
―――それはそうだろう。
綱吉だってそんな事態考えただけで寒気が走る。
だからこそ、首の痣には触れずに基地へと戻ったのだが。
触れぬからといって傷はなくなりはしないのだ。心の中という見えぬ場所ならなおさらに。
「獄寺君」
名を重ねれば泣きそうに歪む瞳。
罪悪感やら苛立ちやら複雑な感情に色濃く染まったそれは、けれど何よりも強く、獄寺の思いを語る。
「……怖く、ないよ」
「っ」
「大丈夫、怖いことなんて何もない」
「じゅ、だいめ…」
ようやっとの返事に顔が綻ぶ。浮き上った感情のまま、綱吉は続けた。
怖くない。大丈夫。
「君はいつだってオレに手を伸ばしていいんだ」
言って触れた獄寺の両手。
握り締められていた拳がゆっくり、ゆっくりと。解けるように力を抜いた。
「じゅう、だいめ」
「うん」
「じゅうだいめ」
「うん」
「……しなないでください」
「うん」
その言葉を、最後まで音にしきれただろうか。
肯定を返した途端に綱吉の身体は強く引かれた。
きつく、縋るような腕の強さに目を閉じる。
こんなにも傷つきながら、なお綱吉の怪我を避けて抱き締める獄寺に
言い得ぬ想いを込めて、そっとその背を撫でた。
きみのなかの傷に
せめてこの手がとどくように。
09.05.14UP