肩に、腕に、そっと触れる。
    戸惑いに揺れるまぶたはふわりとほの青く。薄いその向こうの灰緑に言い知れぬ心地を覚える。
    白く、美しい君。
    重力に抗うよう、腕をたどって下へ下へと向かっていた己の手へと力を込める。
    握りしめた手のひらが、緊張に軋む音を聞いた気がした。

    「ごくでらくん」

    年端の行かぬ、幼子のような呼びかけに獄寺の唇がきつく結ばれる。
    その様に、先ほどから綱吉の奥底に燻ぶっていた熱がさらに温度を上げた。

    「ごくでらくん」

    音とともに引いた身体はあっけなく綱吉のもとへと落ちてくる。
    なのに、上背の勝る獄寺は押しつぶさぬよう不自然に強張って。やはり、綱吉に重さを感じさせないのだ。
    きっと訳が分かっていないだろう、こんな時ですらも。

    「ごくでらくん」

    告げた声は強く響いただろうか。近く、近く、耳元で、もう一度呼ぶ。
    さながら悪魔のささやきのごとく、近く。

    「ごくでらくん」

    そうして、ようやっと綱吉の両手は獄寺の背へと回され、
    じりじりと燻される獄寺の温度へ鼓動とともに同じ温もりを返すのだ。



    ―――泣いてしまえ。
    そう、
    時に綱吉を追いたてるほど強い感情を、獄寺へぶちまけながら脳の片隅で思う。
    泣かせてしまいたい、なんて。まるで好きな女の子を苛めてしまう小学生のような、ぎこちない行為。
    根底に転がる愛しさに変わりはなくとも、押しつけてしまう身勝手さを自覚している分、性質が悪いと内心で苦笑する。
    けれども、それこそが恋情だと開き直ってしまうほどにはもう、手遅れで。

    ねえ、だから。
    だから、そんなに恐れないで、自分を貶めないで。
    こんなにも君へと溺れているんだと、そろそろ君も気づいてくれ。

    君の弱さも、嫌だと眉をしかめてるだろう感情も、何もかも
    こんなにも自分は望んでいるのだから。




                                                                                                                                                       09.01.14UP