明けましておめでとう。

    「……って、イタリア語ではどういうのかな?」

    寒さの身に染みる、初詣帰りの道で綱吉は獄寺へと訊いた。
    隣歩いていた獄寺はきょとんと一度瞬いた後、
    (何せこの大切で大事でたまらない、至高の人はどうしてかあまりイタリア、ことマフィアについて興味を示してくれないからいささか驚いてしまったのだ)
    おそらく何ら含みのない、軽い興味からだろうと結論付けて口元を緩める。
    軽くであろうと興味を持ち、なおかつそれを自分へと問うてくれたのが心地よかったので。

    「そうですね、いろいろ言い方はあると思いますが」

    聞き取りやすく発音しようと口内で舌を動かし、滑らかさを心がける。寒さも乾燥も心配いらなくなっただろう状態で獄寺はゆっくりと唇を開いた。

    「Un anno Nuovo e Felice」

    “felice”までしっかりと言い切れば、なぜかぽかりと口を開いた綱吉の表情。
    耳慣れないし、やはり聞き取れなかっただろうかと再び教えようとした獄寺へ放心していた綱吉がハッとしながら手のひらを突き出してきた。
    その動きが示すまま口を閉ざし、訳の分からぬまま綱吉を見つめる。
    と。彼の薄茶の瞳がせわしなく辺りをさ迷い、しばらくの後、盛大にため息をつかれた。
    なぜ?そう慌てる獄寺を見越してか、綱吉は俯いて逸らされていた視線をしぶしぶと戻し、先を制す。

    「うん、わかった。オレ、まかり間違ってイタリアにいくことになっちゃうまでは日本人らしく日本語でいうことにするよ」
    「……そんなに聞き取りづらかったですか?」
    「むしろ分かりやすくてびっくりした」

    うんうん、と何故か高速でうなづいている綱吉に疑問符がおどる。よく分からない。けれど

    「あー…、でも、うん。せっかく教えてもらったから……、そうだね、獄寺君には言ってみるよ」

    そうたどたどしくも伝えられた母国の特別で格別な言葉に、獄寺のささやかな疑問などあっさりと流されてしまったのだ。



    ―――あんなに嬉しそうに柔らかく言われれば、なあ…。
    そう綱吉が内心頭を掻き毟りそうなほど狼狽しているなど、知りもせず。




                                                                                                                                                                        09.01.03UP