「オレはツナがいなくなっちまったら、きっとまっすぐ生きてらんないと思うのな」
夕暮れの教室。いつもならグランドでバットを振っているだろう山本はぽつりとそう零した。
ゆるく染まる空間の中―――ああ、この色はオレの大切で大切でたまらないあの御方の色―――野球ぐらいしか取り柄のない馬鹿は
妙に静かな調子でもって獄寺へと微笑んだ。
らしくない空気。
そんな言葉、言われたからとてどうしろというのだ。
衒いもなく吐き出す姿に苛立ちすら覚えそうで、獄寺はただ黙って黒の双眸を見返す。
―――いま、ここに、じゅうだいめがいなくてよかった、なんて…。
「でも、な」
じわりと滲むような感情に鋭くなっているだろう獄寺の視線の正面、ぶつけられている山本は笑みを崩さずに言葉を紡ぐ。
「オレは獄寺がいなくなってもそうだと思ってる」
ツナとはまるっきり同じ形じゃないだろうけど。でもきっと同じぐらい、痛い。
そんな台詞を投げ出す。
そんな馬鹿で阿呆で、どうしようもない思考の男に。
けれど沈黙ののち、『……意味、分かんねえ』、なんて。捻りも皮肉もない返答しか出来なかった己はもっと馬鹿だと思う。
―――共感できるかもしれないなんて、脳をよぎった時点でもうどうしようもなく。
09.05.22UP