「〜〜〜〜っううううーー、生き返るーーー」

    ぽわん、と浮き立った美声にふわり、と埋められる金髪。
    そのどれもが離れがたいというように一所へと擦り寄せられていて。

    (…さすがはリボーンすらも虜にした魔の暖房器具)

    感嘆と呆れと。綯い交ぜにしながら綱吉は自室のコタツ布団をなでた。
    今宵、窓の外に広がる空は空気を凍らせて、しずかに冬を伝えていた。
    そんな中、いつものごとく唐突に現れたディーノはいつものように、朗らかな笑みをくれる。
    ただ、鼻の頭をちょっとだけ赤くして。

    今にも降り出しそうな雪の気配に慌てて自宅へと引っ張り込んだのが、10分前。そして興味津津にコタツへと足を突っ込んだのが5分前だ。
    以降、この兄弟子は先生さまと同じく、でれりとコタツの魅力に屈してしまった。
    夜遅くに訪れた目的も、まだ口にせず。

    どうしようか。
    そうディーノへのみかんを剥きながら綱吉は悩む。
    このどこかの貴族のように格好良い兄貴分はいつだって綱吉を喜ばせてくれるし、助けてくれるけれど。
    何でもないようなその笑顔の下、肩書きにふさわしく多忙を極めていることを薄らと気づいていたから。
    だけど。

    「なー、ツナ、これ、ウチに持ってっちゃダメか?」

    ごろごろと猫のごとく懐きながらディーノが上目に訊ねてくる。
    その瞳に真っ向からぶつかって綱吉は内心呻いた。
    濃茶の色をさらに輝かせて、全身で語っていたからだ。
    ―――楽しんでいるという、そのことを。
    一粒一粒、丁寧に筋を取りながら綱吉はようよう首を振る。
    さすがに真冬の最中で唯一の暖房器具を失うわけにはいかない。つか、愛用しているリボーンに殺されるわけにはいかなかったからだ。
    拒否の理由を伝えれば、先生と違い無茶を通さぬディーノは物分かりよく引いてくれる。
    だが、輝きに満ちていた瞳はほんのわずか翳りを見せて。

    「そっか、残念だな」

    なんて。言葉そのままに、心底からガッカリしているのを伝えてくるから。

    「また、いつでも入りに来てください。……ディーノさんの席、開けておきますから」

    なんて。思わず言ってしまう。
    その、複雑な感情のまま、
    美味しそうな姿をきれいに現わしたみかんを一粒、渡した。

    「サンキュー、ツナ。絶対な!」

    翳りなんてなかったのよう、再び眩しく向けられる双眸に綱吉は頬をかく。
    落ち着かぬ心地のまま、自身の口へも放ったみかんはとろりと甘く。


    (……………ディーノさんってときどきランボみたく感じちゃうんだよなあ…)

    もぐもぐと咀嚼しながら、絶対面と向かって言えないな…、と綱吉は心中呟いた印象ごと甘さを飲み込んだ。


    突然訪れた兄弟子のそばに黒衣の部下はひとりもいなかった、そんな夜。



    きっと忙しいだろう彼。だけど、この時間を楽しんでくれているのならば、あと、もう少しだけ…。





                                                                                                                                                       09.01.19UP